厚生と幸福

人の望みとよろこび

やがて君になる 加藤誠監督メッセージ

‪胸の奥底に広がる小さな宇宙*1
‪誰かを愛おしく想う、感じることで輝きだす‬
‪眩しくて儚い美しい星々の光たち*2。‬
‪誕生と消滅を繰り返す中、幾ら待っても‬
‪訪れない光*3も沢山あって……。‬

‪10代のココロの天体観測*4。‬
‪ロマンに満ち溢れている筈なのに、‬
‪どうしてこんなに苦しいの*5?‬
‪私が覗く望遠鏡に映った空には‬
‪幾つの星たちが輝いているのかな*6?‬

‪何光年先から生まれた光の種は‬
‪必ず誰の元へも届くはず。‬
‪永遠に残したい*7と強く想う、‬
‪「特別な光」を皆さんと信じ、‬
‪待っていられたらいいなと思っています。‬

 

参考文献

  • 清水純一 「ミクロコスモス」『世界大百科事典 第27巻』 加藤周一 編集、平凡社、2007年。

*1:Macrocosmos and microcosmos, Macrocosm and microcosmは、大宇宙(マクロコスモス)と小宇宙(ミクロコスモス)の対概念で、大きな世界(大宇宙)に対応する小さな世界(小宇宙)は、通常は人間を指す。清水 2007, p. 317

*2:これは前述の小宇宙(ミクロコスモス)という記述を踏まえると、大宇宙と照応する小宇宙としての人間、その中にある星々の光を、愛情をはじめとする諸感情の作用となぞらえた表現であろう。

*3:言うまでもなく小糸侑の「特別」という感情の発露が、何事かによって妨げられているという、本編における重要な事柄を指す。

*4:小宇宙である人間、そして星々となぞらえられている諸感情の作用を観測するわたくしども読者の営みを指すと思われるが、ポエジーというよりは、些かおっさん臭いことは否定できない。

*5:かなり厳しくなってきた。

*6:この辺りはハッキリ言ってよくわからないし、正直もうやめてくれ。

*7:今回のアニメーション作品への意気込みか?

かわいい女(TBS日曜劇場『A LIFE〜愛しき人〜』)

 やはり無邪気な女というのはかわいらしいと思います。しがらみに縛られた女というのもまた特有のかわいらしさがあるのですが、何事にも目を奪われずにまっしぐらに目標へ向かって邁進する女。なんといってもこれに尽きる。女というのは迷いのないのが一番だと思います。ぼくは溌剌な女が好きだ。

 しかし、常に何かに縛られている女というのも不意に無邪気な貌をみせるものです。日頃から何かに頭をいっぱいに悩まされていて自分のことなど考える暇がない。そういう女が時折、すべての雑事を忘れて夢中になる。美しい目をしているものだ。頬は上気して、恍惚した、夢見心地な表情を浮かべるのだ。

 TBS「日常劇場『A LIFE〜愛しき人〜』」 http://www.tbs.co.jp/ALIFE/ を観た。ぼくはけっこうドラマを観るほうなのだが、ストーリーとしてはそこまで秀逸というわけでもない凡庸なドラマだと思う。昨今のTBS日曜劇場の隆盛はみなさんもよく知る通りだと思うがこの『A LIFE〜愛しき人〜』は、SMAPを解散したばかりの木村拓哉が出演することで注目を浴びている。思うに、ぼくはこのドラマの最大の見どころというのはキャラクターにあると思う。最も輝いているのは病院を守るべき経営者の立場と一人の医者としての立場とさらには一人の男としての立場と、多くの〝立場〟に押し潰されそうになる副医院長の壇上壮大(浅野忠信だと思うのだが、くたびれて神経質になったおじさんの話をしてもおもしろくないのでかわいい女の話をしたいと思う。

 ぼくのこのドラマにおける好みのかわいい女は、薄幸の院長の娘・壇上深冬(竹内結子と迷うが、今回話したいのは腕利きのナース柴田由紀(木村文乃のことである。

 まず言っておきたいのが、ぼくは木村文乃の顔がめちゃくちゃ好きである。顔がいい女というのはそれだけでめちゃくちゃにいいのである。これについてはみなさんもよくご存知なのではと思うし、木村文乃の顔のどこが好きかとかを長々と語るつもりはない。

 かわいいというのはキャラクターとしての柴田由紀の話である。というのも、彼女のかわいらしさというのは冒頭に語った女のかわいさに他ならないと思うのである。

 凄腕のオペナースとして登場した柴田由紀は第一話から敵の多い主人公・沖田(木村拓哉の数少ない味方として、理解者としてあった。しかし彼女にはどこか影があり、また沖田の同僚の医師・井川(松山ケンイチに何度言い寄られてもちっとも靡かない女であった。ぼくはこのころの〝強い女〟然とした柴田由紀が大好きだったのだが、彼女にはどうやら出自の悩み、またナースという職に対する悩みがあるらしいことが何度も示唆されていた。とうとうこれが4話で明かされたので、ぼくは内心で歓喜した。

 柴田由紀の家は医者の家だったが、不幸にも父親が訴えられて病院が潰れてしまい、彼女には医学部の学費を払うことができず、奨学金をもらって看護学校に進むしかなかったという過去があったということが明かされたのである。実に懸命に日本の医師社会を諷刺したよいキャラクターである。

 思うに、彼女は誰よりも必死に勉強してきたのである。父親への憧れか、医師という仕事への憧れか、あるいはその両方か。彼女は周りの浮かれた富裕家庭の医大志望生を横目にして、自分は、自分だけはと理想を高く努力してきたのである。父親の転落は彼女にとってどれだけショックであったろうか。

 いまの社会では、どんなに能力があってもどれだけ理想が高くても金がなければ医師はできない。医学部に行かなければ、医師免許は取れないのだ。これは現実であり、揺るがないのである。彼女はどうしようもないものを前にして諦め、ナースになった。

 それからずっと、彼女のナースとしての人生は、行き場のない恨みと、医師への妬みとそれから自分の能力への悔悟と、それらが綯い交ぜになった複雑な思い。それに支配されたものであったに違いないのである。ナースが医師に馬鹿にされるとは言わないが、彼女自身がナースを正しく評価できない。医師への憧れ、妬みがそうさせない。

 彼女はかわいそうな女だった。健気に、与えられた職場と仕事で懸命にできることをこなす、初めの信念であった患者を救うという使命に対して、必死に自分のできることをしてきた真摯な女だった。それが──

 沖田(木村拓哉との出会いで、彼女の世界はきらびやかに変わった。彼女の能力を、彼女の代わりに正しく評価してくれる医師の存在は、彼女にとっていかに救いがあったか言うべくもない。沖田と同じで、彼女も沖田医師のことを誰よりも信頼できるパートナーとして、また一人の異性として意識しないことはなかったろうと思う。

 しかし、4話では提携先の病院で起きたナース蔑視のための事件によって、ナースをやめようとしてしまう。それは柴田由紀の長年のナースに対する劣等意識と、沖田との行き違いの末の、勢いの行いだった。

 あまりにもかわいそうで、もうものすごい興奮ですよ。ぼくはもうたまらなかった。

 このかわいそうな女が、日頃はつめたくしているはずの松山ケンイチのデートの誘いを受けるんですよ。これもまあ勢いで。松山ケンイチもまたかわいい俳優なのですが、二人で初々しいデートなんかして、お互い不器用だから仕事の話なんかしてしまって、喧嘩をしたり。かわいい。

 ドラマの筋としてはここからなんやかんやあって柴田由紀は沖田の尽力もあってナースとして復帰することになり、柴田由紀は沖田への思いを新たにするわけです。

 もやもやした思いから一時的に解放されたような思いで向けていた沖田への思いを一度断ち切ってナースをやめる決意をし、再び今度は自分の抱えた思いと向き合ってそれを乗り越える形で沖田への思いを新たにしたわけです。実によくできた心理展開です。

 こういうキャラクターの心情に関しては、今期ドラマでもなかなかないレベルだと思います。かわいそうな女セレクションだ。ぜひみなさんにも見てもらいたい。

 竹内結子木村文乃。かわいそうな女しかいないが、みんなかわいい。というわけで、TBS日曜劇場『A LIFE〜愛しき人〜』をよろしくお願いします。